JC18 セキサカ [漆器] ×サム・ヘクト&キム・コリン

R&D 田渕智也

“STORE”

日本特有のものづくりの変遷から生まれた
用途を自由に発想できるプロダクト

越前漆器は福井県鯖江市の河和田地域で約1500年前に始まり、日本最古の漆器産地と言われている。もともと主流だったのは「丸物」と呼ばれるお椀。木地をつくる木工職人と漆を塗る塗り師の連携に、江戸時代末期から蒔絵師や沈金師も加わり、堅牢で華やかな器として隆盛した。明治になると重箱やお盆など多様化し、人々の生活に浸透する。

そして高度成長期以降、素材や技術の革新による時代の変化を反映して、越前漆器も変化を遂げる。樹脂で成型し、黒や朱の化学塗料を塗る「業務用漆器」が、丈夫さ、使い易さ、量産性といった外食産業のニーズに応えたのだ。今では「木製漆器」と「業務用漆器」に分けられ、全国の業務用漆器の約80%を鯖江市で生産している。

木製椀の製造販売で約300年前に創業したセキサカは、現在は主に給食や機内食、病院などで使われる業務用漆器を手がけるマニュファクチュアだ。

サム・ヘクトとキム・コリンが率いるIndustrial Facilityはロンドンを拠点にするデザインスタジオ。文化的背景をみる大きな視野とディテールをみる小さな視野の両方向から、課題に柔軟に向き合って的確な答えを導き出すスタイルで、現代の工業デザインを牽引している。

セキサカは、伝統を重んじながらも、社会の需要や産業発展を踏まえて進化する日本特有のものづくりの変遷を辿ってきたと言えるが、そこにサムとキムの洞察力が新たな価値与えるのは確かだった。

ふたりは、越前漆器が日本の生活の中で担ってきた役割と、機械化された業務用漆器の生産工程でもなお熟練した手仕事が生かされていることを理解した。伝統的な漆器とは別の、むしろ自由を許容するものづくりのあり方を認めた上で提案したのは、用途も自由に発想できるプロダクトシリーズ「Store」。越前漆器の原点でもあるお椀を彷彿とさせるデザインをベースに4つの形のバリエーションからなる多目的容器が完成した。

関坂漆器の工場を見学するサム・ヘクト氏。

プロセス1

工場にて塗装された漆器を一時的に乾燥させている状態。この後乾燥機に入れ、60〜80度の高温で乾燥させる。

プロセス2
プロセス3
プロセス4

樹脂成形工場にて、成形機から取り出したお盆の縁にできる「バリ」(溶融樹脂が金型の隙間に流れ込み固まった部分)を取る工程。

プロセス5

職人が熟練の技術で器の内側のみ朱色に塗装している。マスキング無しでも外側には一切塗料が付着しない。

プロセス6
プロセス7

セキサカSEKISAKA

1701年に木製漆器製造で創業した老舗漆器メーカー。現在は主に樹脂にウレタン塗装を施す業務用漆器を企画、製造。給食や機内食、医療機関で活用されている。漆器や雑貨、洋服を扱うセレクトショップ「ataW」を運営。

サム・ヘクト & キム・コリン(インダストリアル・ファシリティー)Sam Hecht & Kim Colin (Industrial Facility)

サム・ヘクトとキム・コリンのデザインスタジオ。2002年にロンドンで設立。ヤマハ、イッセイ・ミヤケ、無印良品などにデザインを提供している。課題に柔軟に向き合って的確な答えを導き出すスタイルで、現代の工業デザインを牽引する。

セキサカ
セキサカ
キム・コリン(左)とサム・ヘクト(右)
キム・コリン(左)とサム・ヘクト(右)