JC06 東レ・カーボンマジック [カーボンファイバー] × ナチョ・カーボネル
クリエイティブが素材に与える新しい生命
日本のものづくりと聞くと、長い歴史を持つ伝統工芸に目が向きがちだが、ジャパンクリエイティブが考えるそれに時代性は関係なく、最先端技術を含むあらゆる最高の技を視野に入れている。
カーボンファイバー生産量は日本が世界シェアのおよそ8割を占めるが、その加工分野におけるリーディングカンパニーが、東レ・カーボンマジック(旧 :童夢カーボンマジック)だ。
軽量という特性ばかりが注目されるカーボンファイバーに、新しい可能性はないだろうか。これを模索するため、素材に生命を与え、物語をつむぎ出すような芸術性の高さに定評のあるナチョ・カーボネルに声をかけた。
カーボンファイバーという見慣れない課題を与えられ、一瞬戸惑いを感じたというが、滋賀県の工場を訪れると、カーボネルの目は一気に輝きを増した。プロセスを一通り聞くと彼はいきなり針金を触りながら、原型モデルをつくりはじめる。こうしたナチョ・カーボネルの勢いと情熱的な行動は、現場の人間を奮い立たせた。
こうしたでき上がったのが、強烈な音を出すためのデバイス。上部についたヒレのような部材を引っ張り上げ、落とすと、作品全体がものすごい音を立てる。東日本大震災を機に、私たちはさまざまな問題や意識の変化に気付かざるを得なかった。そんな心情を、カーボネルはこの作品に込めたかったのだ。
一般使用できる機能性こそ持たないが、軽く、しなやかで丈夫というカーボンファイバーの特性を組み入れている。また通常は内部構造体として使われるため、表面加工を一切しない複合材に、着色や仕上げの指示をしたことは、これまでにない新しい試みになった。
滋賀県米原市の工場。
工場を見学中。スタッフからヒアリング。
炭素繊維を硬化するための圧力釜。
カーボンファイバー。
弾力性を確かめる。
自らの手でイメージを具現化。
カーボンファイバーを貼り重ねる。
東レ・カーボンマジックToray Carbon Magic
自動車ショーのモデルカーやレーシングカーの開発を手がけていた童夢が、製造部門を独立させ、2001年に童夢カーボンマジックを滋賀県米原市に設立。F1ドライバーの命を守るカーボンモノコックの開発、製造で培った繊維強化プラスチック成形加工技術と軽量化設計技術を駆使し、現在は航空機をはじめ、さまざまな部品、構造物を製造している。
ナチョ・カーボネルNacho Carbonell
1980年スペイン生まれ。スペインの大学を卒業後、オランダのデザインアカデミー・アイントホーフェンで学び、2007年に優秀賞を授かって卒業。素材とストーリー性の高さを一途に追求した作品を発表している。現在はオランダのアイントホーフェンにスタジオを設立し、チームで活動を行っている。
R&D 田渕智也Tomoya Tabuchi
1974 年、栃木県生まれ。桑沢デザイン研究所を卒業後、家具メーカー入社。
インハウス・デザイナーとして、企画、デザイン、商品開発を担当する。
2010年、office for creationを設立。フリーランスで活動を開始。
家具などのプロダクトデザインを中心に、グラフィックデザインやアート・ディレクションも手掛けている。