JC05 幸兵衛窯 [陶器] × インガ・センペ
軽快でグラフィカルな、現代の“ひょうげもの”。
桃山時代の茶人で、千利休の弟子として知られる古田織部が好んで使ったことから、その名が付いた織部焼。その歪んだ形や大胆とも思える色使いと絵付が特徴であり、ときに向付に代表されるような極端にいびつな形の器もつくり、その昔、陶器を取り扱う商人たちから「ひょうげもの」(ひょうきんでおどけたもの)と呼ばれるほどだった。
開窯200年を超える幸兵衛窯も、寛容性の高い織部の伝統を受け継ぎながら、時代時代でさまざまな新しい技法を研究し、独自の表現を築き上げてきた。
窯を訪れたインガ・センペに、加藤亮太郎はお茶を点てながら、日本ならではの器の愛で方について説明する。ヨーロッパと違い、日本では卓上にさまざまな形、色合いの食器が同時に並ぶ。それらが呼応し合うことで、はじめて一つ様式美として成立するのだと。
これを受けて、インガ・センペがデザインしたのが、グラフィカルなチェック柄をモチーフとした愛らしい器たち。
ユニークなのは、そのカラースキームだ。黒茶をベースカラーに使いながらも、織部の特徴的な色でチェック文様をあしらい、ラインの途中で色を変え、グラデーションのように見せている。この作業は非常に繊細で高い技術力を要求するため、熟練の絵付け職人たちがすべて手描きで丁寧に仕上げている。
茶事用の器を中心として人気があるため、比較的愛用者の年齢層が高い幸兵衛窯。今回、製法や素材はそのままに、インガ・センペのポップで軽快なデザインが加わったことにより、若年層にもその魅力を伝えられる器となった。
開窯200年を超える幸兵衛窯。
8代目、加藤亮太郎。
土の硬さを均一にする菊練り。
技法の幅広さが、幸兵衛窯の特徴。
熟練の職人による絵付け。
桃山時代の様式を1972年に再現した「穴窯」。
絵付け後の様子。ラインひとつひとつを丁寧に仕上げている。
幸兵衛窯Koubei-gama
1804年初代加藤幸兵衛により開窯。間もなくして江戸城の本丸と西御丸に染付食器を収める御用窯となる。200年の歴史のなかで、さまざまな実績と研究を重ね、6代目卓男(1917-2005)はペルシャ陶器や正倉院三彩の技法を復元し、1995年に人間国宝に認定。現在は8代目の加藤亮太郎が指導して品格のある和食器を中心に手がけている。岐阜県多治見市に所在。
インガ・センペInga Sempé
パリ生まれ。1993年に工業デザイン高等学院を卒業。2000年に独立。ユニークで愛らしいセンスにより、一目観たら忘れられないような印象的な家具のデザインをテーマに展開。その他、オブジェやテキスタイルのデザインも幅広く手掛けている。2003年にはパリ装飾美術館で個展を開催した。
R&D 倉本 仁Jin Kuramoto
デザイナー、1976年、兵庫県生まれ。金沢美術工芸大学を卒業後、家電メーカーに入社。インハウス・デザイナーとして務めたのち、2008年、JIN KURAMOTO STUDIOを設立。現在は、日本と中国に拠点を持ち、家電製品や家具、ホームファニシングなど多様なプロダクトのデザイン、品開発を手掛けている。iF Design賞など受賞多数。